
咳は多くの場合、呼吸器系の感染症や慢性疾患によって引き起こされますが、中には一見呼吸器とは関係がないように思える病気が原因となることもあります。
こうしたケースでは、咳が長引いても一般的な治療で改善せず、原因の特定に時間を要することが少なくありません。
代表的なものに胃食道逆流症(GERD)や睡眠時無呼吸症候群(SAS)があります。
胃食道逆流症では、胃酸や胃の内容物が食道へ逆流し、それが喉や気道を刺激して慢性的な咳を引き起こします。特に夜間や起床時に症状が強くなる傾向があり、胸やけやのどの違和感を伴うこともあります。
一方、睡眠時無呼吸症候群では、睡眠中の気道閉塞による呼吸停止や低酸素状態が繰り返されることで、気道の乾燥や刺激が生じ、日中にも咳や喉の不快感が続くことがあります。
これらの疾患は、咳そのものよりも背後にある病態の発見と治療が重要です。
咳が長期間改善せず、発熱や痰などの典型的な呼吸器症状が乏しい場合には、呼吸器以外の原因も含めた幅広い診断が求められます。
適切な検査と治療によって、咳だけでなく生活の質(QOL)の改善にもつながるため、早期の医療相談が大切です。
胃食道逆流症(GERD)とは? しつこい胸やけや咳の原因かも
通常、食道と胃の間には「下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)」と呼ばれる筋肉があり、胃の内容物が食道へ逆流するのを防ぐ「逆流防止弁」のような役割を果たしています。しかし、この筋肉の働きが弱まったり、本来お腹の臓器である胃の一部が横隔膜の穴(食道裂孔)を通って胸のほうに持ち上がってしまう「食道裂孔ヘルニア」という状態になったりすると、胃酸が食道へ上がりやすくなります。胃酸は非常に強力な酸性であるため、食道の粘膜に炎症を起こし、胸やけなどの症状を引き起こしますが、実は、この胃酸の逆流が、しつこい「咳」の大きな原因となっている場合があるのです。
胃食道逆流症(GERD)咳の原因
胃食道逆流症の主な原因は、前述の下部食道括約筋の機能低下と食道裂孔ヘルニアです。これらの状態により胃酸が逆流しやすくなることで、胸やけだけでなく、厄介な咳も誘発されやすくなります。
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下部食道括約筋の機能低下
この筋肉が適切に収縮しないと、胃酸が容易に食道へ逆流してしまいます。機能低下の背景には、加齢、特定の薬剤(例:喘息治療薬の一部、高血圧治療薬の一部など)の服用、脂肪分の多い食事などが関与していることがあります。胃酸が逆流するたびに、食道の粘膜や神経が刺激され、咳反射が起こりやすくなります。
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食道裂孔ヘルニア
お腹の臓器である胃の一部が、横隔膜の隙間から胸腔内に入り込んでしまう状態です。これにより、胃と食道のつなぎ目が適切な位置になく、胃酸の逆流が起こりやすくなります。肥満や加齢によって、このヘルニアが発生しやすくなると言われています。ヘルニアによって逆流が慢性化すると、それに伴う咳も頑固なものになりがちです。 また、これらの根本的な原因に加え、以下のような要因が胃食道逆流症の症状を悪化させ、結果として咳を誘発・悪化させることが知られています。
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肥満
肥満は腹圧(お腹の中の圧力)を高め、胃が押し上げられやすくなるため、胃酸の逆流が起こりやすくなります。体重が増加するとGERDのリスクが高まり、減量によって症状が改善することが多くの研究で示されており、それに伴い咳も改善する可能性が高いです。
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高齢
加齢とともに下部食道括約筋の機能が低下したり、食道裂孔ヘルニアが生じやすくなったりするため、高齢になるほどGERDの発症リスクが高まります。高齢者の長引く咳の原因として、GERDは特に考慮すべき疾患の一つです。
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お腹の圧が高まる状態
骨粗鬆症による猫背(円背)、きつい衣服の着用、前かがみの姿勢なども腹圧を高め、胃酸の逆流を誘発する可能性があります。これらの姿勢は、咳が出やすい姿勢とも共通しています。
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食習慣
脂肪分の多い食事、カフェイン、アルコール、香辛料、柑橘類、チョコレートなどは、下部食道括約筋を緩めたり、胃酸の分泌を促進したりすることで、症状を悪化させることがあります。これらの食品を摂取した後に咳が悪化する場合、GERD関連咳嗽の可能性が考えられます。
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喫煙
喫煙も下部食道括約筋の機能を低下させ、胃酸の分泌を促進するとされています。禁煙はGERD症状の改善に有効であり、しつこい咳を止めるためにも非常に重要です。
胃食道逆流症(GERD)の症状
胃食道逆流症の症状は多岐にわたりますが、「咳」は、特に見過ごされやすい重要な症状の一つです。
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咳
胃食道逆流症は、慢性的な咳(8週間以上続く咳)の原因の約10〜20%を占めるとされています。これは、逆流した胃酸が食道にある迷走神経という脳神経の経路を刺激することで咳が誘発されたり、ごく少量の胃内容物が気管に誤嚥(ごえん)され、気道を刺激したりするために生じると考えられています。特に、夜間や食後、横になった時、前かがみになった時に咳が悪化する傾向がある場合、GERDによる咳の可能性が非常に高いです。
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喘息様の症状
気管支喘息と似た咳や喘鳴(ぜんめい:ヒューヒューという呼吸音)が現れることもあり、喘息と区別が難しいケースもあります。特に、既存の喘息が悪化したり、咳止めの薬や吸入薬が効かない喘息のような咳の場合は、GERDが原因の可能性があります。
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胸やけ
胸の中央部が焼けるような、あるいはヒリヒリするような感覚です。みぞおちから胸のあたりに感じることが多いです。
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呑酸(どんさん)
逆流した胃酸が口やのどにまで上がってきて、酸っぱいものや苦いものがこみ上げてくる感覚です。
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非典型的な症状(食道外症状)
胃酸の逆流は、食道以外の場所にも影響を及ぼし、様々な症状、特に慢性的な咳を引き起こすことがあります。
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のどの違和感・つかえ感(咽喉頭異常感)
のどに何かが詰まっているような感覚や、いがらっぽさを感じることがあります。この症状も咳と合併しやすい傾向があります。
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声がれ(嗄声)
逆流した胃酸がのどや声帯に炎症を起こすことで生じます。声がれを伴う慢性的な咳の場合、GERDを疑う重要な手がかりとなります。
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げっぷ、お腹の張り
消化器症状としてこれらの不快感が生じることもあります。げっぷが多い方は、胃酸の逆流も起こりやすく、それに伴い咳が出やすくなる傾向があります。
胃食道逆流症(GERD)の診断方法
胃食道逆流症の診断は、主に症状の問診に基づいて行われますが、特に慢性的な咳の原因としてGERDを疑う場合は、慎重な診断が求められます。
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問診
患者さんの症状を詳しく聞くことが診断の第一歩です。Fスケール問診票という質問票がよく用いられます。これは、胸やけ、お腹の張る感じ、のどの違和感・つかえ感、胃酸の逆流、げっぷなどの症状の程度を12項目の質問で点数化することで、GERDの可能性を評価するものです。特に、咳の症状がGERDの典型的な症状と関連しているか、悪化するタイミングはどうかなどを詳細に確認します。
胃食道逆流症(GERD)の検査方法
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胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)
※当院では実施しておりません。信頼のおける連携医療機関にご紹介いたします。食道の粘膜が胃酸によってダメージを受けているかどうか(逆流性食道炎の有無や重症度)を直接観察するために行われます。ただし、食道の粘膜の傷の程度と、GERDの症状の強さは必ずしも一致しないことが知られており、特に、咳が主症状であるGERD(非びらん性GERD)では、内視鏡で明らかな炎症が見られないことも珍しくありません。
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食道pHモニタリング検査
※当院では実施しておりません。信頼のおける連携医療機関にご紹介いたします。食道内のpH(酸性度)を24時間測定し、胃酸が食道に逆流している頻度や時間、症状(特に咳)との関連性を客観的に評価する検査です。内視鏡で食道炎が確認できない非びらん性GERDや、胃食道逆流症が疑われるが診断が難しい場合に特に有用で、咳と胃酸逆流の関連性を客観的に評価する上で最も重要な検査の一つです。
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食道内圧検査
※当院では実施しておりません。信頼のおける連携医療機関にご紹介いたします。 下部食道括約筋の圧力や食道の蠕動(ぜんどう)運動(食べ物を胃へ送る動き)の異常を評価する検査です。
胃食道逆流症(GERD)咳の側面からの診断基準
日本呼吸器学会の「咳嗽に関するガイドライン」では、8週間以上続く慢性咳嗽において、以下の特徴が一つでも該当する場合に、胃食道逆流症による咳(GERD関連咳嗽)を強く疑い、治療の開始を検討することが推奨されています。
- 胸やけ、呑酸など、胃食道逆流症の典型的な症状を伴う。
- 咳払い、声がれ(嗄声)など、のど(咽喉頭)の症状を伴う。
- 会話、食事、前のめりの姿勢などで咳が悪化する。
- 咳の原因となりうる特定の薬剤(例:ACE阻害薬など)の使用がないこと。
- 気管支を広げる薬剤(気管支拡張薬)、吸入ステロイド薬、抗アレルギー薬などのいわゆる呼吸器系の薬剤が効かないこと。
これらの条件が満たされ、さらに後述する胃食道逆流症の治療薬(胃酸を抑える薬)を服用した後に咳が明らかに軽快することで、胃食道逆流症が咳の原因であったと診断されます。いわゆる診断的治療をおこない咳の改認められた場合、診断の最も有力な証拠となります。
胃食道逆流症(GERD)の治療方法
胃食道逆流症の治療の目標は、胸やけや呑酸といった症状、そして関連する 「咳」 を含むすべての症状をコントロールし、患者さんの生活の質を改善させること、さらに食道炎の悪化や合併症(バレット食道、食道狭窄など)を予防することです。
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薬物療法
胃酸の分泌を強力に抑える薬剤が、治療の中心となります。これらの薬は、胸やけだけでなく、GERDによる頑固な咳の改善にも高い効果を発揮します。
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プロトンポンプ阻害薬(PPI)
胃酸分泌を強力に抑える最も効果的な薬剤です。胃酸の逆流を根本的に抑制することで、胸やけや呑酸だけでなく、GERDによる咳の改善にも高い効果を発揮します。通常、2〜3ヶ月程度の服用で咳が改善するかどうかを評価します。
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ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)
ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)
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カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)
PPIと同様に胃酸分泌を強力に抑える新しいタイプの薬剤で、効果の発現が速く、夜間の胃酸逆流にも有効とされています。特に夜間の咳が強い場合に、効果が期待できることがあります。
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消化管運動改善薬
胃から腸への食べ物の排出を促し、逆流を防ぐ効果が期待できる薬剤です。胃内容物が胃に停滞する時間を短縮することで、逆流のリスクを減らし、結果的に咳の回数を減らすことにもつながります。
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生活習慣の改善
薬物療法と並行して、生活習慣の見直しも非常に重要です。これによって症状が改善したり、薬の量を減らせたりするだけでなく、咳の症状も大きく軽減されることが期待できます。
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肥満の改善
肥満は腹圧を高めるため、減量はGERDの症状を著しく改善させることが示されており、肥満が関連する咳の改善にも有効です。
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禁煙
喫煙は下部食道括約筋の機能を低下させるため、禁煙は症状改善に大きく寄与します。たばこの煙自体が気道を刺激して咳を誘発するため、禁煙はGERDによる咳の改善に二重の意味で重要です。
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食生活の見直し
脂肪分の多い食事、カフェイン、アルコール、香辛料、柑橘類、チョコレートなどを控える。 これらは下部食道括約筋を緩めたり、胃酸分泌を促進したりします。これらの食品を摂取した後に咳が悪化する傾向がある場合は、特に意識して避けるようにしましょう。 食べ過ぎない。 食後の胃の膨満感は逆流を誘発し、咳が出やすくなります。
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就寝前の食事を避ける
寝る直前の食事は胃内容物が食道に逆流しやすくなるため、就寝の2~3時間前までには食事を終えることが推奨されます。特に夜間や明け方の咳がひどい方は、この点が非常に重要です。
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寝るときの姿勢
夜間に症状がある場合は、寝る際に上半身(特に頭と胸)を少し高くすることで、胃酸の逆流を防ぐことができます。枕を高くするだけでなく、ベッドの頭側を傾ける(ベッドの脚にブロックをかませるなど)方法も有効です。これは夜間の咳を軽減するために特に効果的な方法です。
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食後の行動
後すぐに横になったり、前かがみの姿勢になったりすることを避けます。食後の咳が気になる場合、しばらく座るか、軽い散歩をするなどして体を起こしておくのが良いでしょう。
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手術療法
薬物療法や生活習慣の改善で症状がコントロールできない重症のGERDや、食道裂孔ヘルニアが大きい場合などには、手術が検討されることがあります。逆流防止機能の強化を目的とした手術(噴門形成術など)が行われます。手術によって逆流が改善すれば、それまで悩まされていた慢性的な咳も劇的に改善する可能性があります。
「慢性的な咳がなかなか治らない」「特に胸やけや呑酸はないけれど、食後に咳が出やすい」「夜間の咳で眠れない」といった症状でお悩みの場合、胃食道逆流症が原因である可能性をぜひ考えてみてください。
胃食道逆流症の治療は、症状のタイプや重症度、合併症の有無によって異なります。つらい症状に悩んでいる場合は、自己判断せずに消化器内科を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。正しい診断と治療によって、長年苦しんできた咳が劇的に改善することもあります。
睡眠時無呼吸症候群(OSA)と「しつこい咳」の意外な関係
「夜中に激しいいびきをかいている」「日中、いつも眠い」といった症状で知られる睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome: SAS)。しかし、この病気が、実は長引く「咳」の原因になっている可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群の中でも特に多いのが、空気の通り道である上気道が睡眠中に繰り返し閉塞する「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA:Obstructive Sleep Apnea)」です。最近の研究では、このOSAが、なかなか治らない慢性的な咳と深く関連していることが明らかになってきています。
様々な報告で、慢性的な咳(8週間以上続く咳)でお悩みの方の約40%から80%が、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)を合併しているというデータがあります。
また、睡眠障害を抱える人々の調査では、OSAがあるグループの方が、OSAがないグループに比べて、慢性的な咳を訴える割合が有意に高かったという結果も出ています。これらのことからも、OSAが慢性的な咳の重要な原因の一つであることが強く示唆されています。
睡眠時無呼吸症候群(OSA)咳の原因
OSAの患者さんで慢性的な咳が生じるのは、一つだけの原因ではなく、様々な要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
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肥満
OSAの患者さんには肥満の方が多い傾向にあります。肥満は、首回りや喉に脂肪がつきやすく気道が狭まるだけでなく、胃食道逆流症(GERD)のリスクも高めます。GERDによる胃酸の逆流は、喉や気管支を刺激して咳を誘発することが知られています。
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胃食道逆流症(GERD)の合併
OSAの患者さんは、睡眠中に呼吸が止まったり、苦しくなったりすることで胸腔内の圧力が変動し、胃酸が食道へ逆流しやすくなることが指摘されています。このGERDが、咳の直接的な原因となっているケースが非常に多いと考えられます。
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上気道・下気道の炎症
OSAでは、睡眠中に繰り返し気道が閉塞・開通を繰り返すことで、喉や気管支といった上気道・下気道の粘膜が物理的なストレスを受け、慢性的な炎症が起きやすくなります。 実際に、OSAの患者さんの気道では、炎症を引き起こす物質(リンパ球、SP、CGRP、IL-2など)が増加していることが確認されています。
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咳感受性の亢進(こうしん)
OSAの患者さんでは、気道が敏感になり、わずかな刺激でも咳が出やすくなる「咳感受性の亢進」が起きていることが研究で示されています。つまり、健常な人なら咳が出ない程度の刺激でも、OSAの患者さんでは過敏に反応して咳が出てしまうのです。
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その他の併存疾患
慢性副鼻腔炎、咳喘息、通常の喘息、繰り返す呼吸器感染症、あるいは上気道の解剖学的な異常なども、OSAの患者さんで咳を引き起こしたり、悪化させたりする要因となることがあります。
このように、OSAは肥満、GERD、気道炎症、咳感受性の亢進など、複数の病態が複雑に絡み合い、それが咳となって現れると考えられています。
睡眠時無呼吸症候群(OSA)の診断方法
OSAが疑われる場合、まずは以下のような検査が行われます。
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問診
いびき、睡眠中の呼吸停止(ご家族からの指摘)、日中の強い眠気、夜間の中途覚醒や頻尿、集中力の低下、起床時の頭痛など、OSAに特徴的な症状がないか詳しくお伺いします。特に、いびきや夜間の胸やけ・咳、鼻炎症状、肥満傾向のある女性、そして日中の眠気が乏しいのに咳が続く方には、OSAが隠れている可能性があります。
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簡易睡眠検査
ご自宅で手軽にできる検査です。呼吸の状態や血中酸素濃度などを測定し、睡眠時無呼吸の可能性を評価します。
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ポリソムノグラフィー(PSG)
OSAの確定診断に最も重要な検査です。自宅で簡単に睡眠中の脳波、呼吸の状態、血中酸素濃度などを多角的に記録・分析し検査できます。 この検査で、1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数を示す「AHI(Apnea-Hypopnea Index)」が5以上であればOSAと診断されます。AHI 5以上15未満:軽症 AHI 15以上30未満:中等症 AHI 30以上:重症
睡眠時無呼吸症候群(OSA)の治療方法
OSAの治療は、いびきや日中の眠気だけでなく、長年悩まされていた慢性的な咳の改善にも非常に有効であることが、多くの研究で報告されています。
特に、AHIが20以上の中等症から重症のOSAに対して標準治療とされているのが、「CPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸療法)」です。これは、寝ている間に専用のマスクを装着し、機械から送り出される空気の力で気道が閉塞するのを防ぐ治療法です。
CPAPによって慢性的な咳が高い改善率を示した報告があり、治療をおすすめします。
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生活の質の向上
CPAP治療は、咳の症状だけでなく、咳によって低下していた睡眠の質や日常生活の満足度も改善させることが、研究によって示されています。CPAPによる咳の改善は、単に睡眠中の呼吸が安定するだけでなく、OSAによって引き起こされていた胃食道逆流症(GERD)の改善、上気道咳症候群(UACS)の軽減、喘息のコントロール改善、そして気道の炎症の抑制といった、複合的なメカニズムを介しており咳だけでなく多くのメリットが期待できます。
長引くしつこい咳は、その原因が多岐にわたり、診断が難しい場合があります。もし、いびきや日中の眠気といった睡眠時無呼吸症候群の症状に心当たりがあり、さらに慢性的な咳にも悩んでいる場合は、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)が隠れた原因である可能性をぜひ考えてみてください。
適切な診断とCPAPなどの治療を受けることで、睡眠の質の改善はもちろんのこと、長年の咳の悩みからも解放され、より快適な日常生活を送れるようになるかもしれません。まずは、当院を受診し、相談してみることをお勧めします。
まとめ
咳は呼吸器疾患に限らず、消化器や睡眠に関連する病気など、さまざまな要因で引き起こされます。特に胃食道逆流症や睡眠時無呼吸症候群のような疾患は、咳の原因として見落とされやすく、長引く症状の背景に隠れていることがあります。重要なのは、咳の持続期間や併発症状を正確に把握し、必要に応じて総合的な診断を受けることです。
原因を突き止め、根本的な治療を行うことで、咳の改善だけでなく全身の健康や生活の質を高めることができます。「咳が長引いているが原因がはっきりしない」という場合は、自己判断せず、医療機関での相談を早めに行うことが大切です。