
COPDとは「Chronic Obstructive Pulmonary Disease」の略称で、日本語では「慢性閉塞性肺疾患」と呼ばれています。咳や痰、息苦しさなどの呼吸器症状が持続的に続き、特に階段を上るなどの運動時に呼吸が辛くなるという特徴があります。この病気は少しずつ進行していくもので、気づかないうちに症状が悪化していることもあります。
日本における最大の原因は喫煙です。自身で喫煙していなくても、家族や周囲の人のたばこの煙(受動喫煙)を長期間吸い込むことで、COPDを発症することがあります。また、たばこ以外にも、粉じんや化学物質などの有害物質を慢性的に吸引する環境で生活していたことも原因になります。呼吸は、空気を口や鼻から吸い込み、気道を通って肺胞という袋状の組織に到達することで行われます。
しかし長期にわたる喫煙により、気道に炎症が起きたり、肺胞が破壊されたりすることで、呼吸機能が落ちてしまうのです。咳や息切れが主な症状であることから、気管支喘息と混同されやすいのですが、COPDは少しずつ進行していくという点で異なります。この病気は40歳以降に発症することが多く、患者さんの約9割は喫煙歴のある方です。
一度損傷を受けた肺は、残念ながら元の状態に戻ることはありません。日本では、40歳以上の約10人に1人がCOPDと推定されていますが、実際に治療を受けている方はそのうちの5%前後といわれています。
診断されていない潜在的な患者さんも多く、今後さらに増加する可能性がある病気です。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の症状
活動量が少し増えただけで呼吸が辛くなることがあります。重症化すると、安静にしていても息苦しさを感じるようになる場合があります。
長期間にわたって咳や痰が続くのが特徴です。風邪と似たような症状で始まるため、見過ごされてしまうケースも少なくありません。
しかし、放置することで症状が進行し、日常生活に影響が出てくることがあります。喫煙者で咳や痰が続いている方は、一度医師に相談することをおすすめします。
COPDの方は、呼吸をするだけでも多くのエネルギーを消費しているため、体重が減りやすくなり、筋肉も落ちやすくなります。
症状が進行すると、食事中にさえ息切れを感じてしまい、食事量が減る → 栄養不足になる → さらに体力が落ちるという連鎖が起こります。
呼吸が苦しくなることで、自然と身体を動かす機会が減ってしまいます。その結果、筋力が低下し、さらに軽い動作でも息切れしやすくなるという悪循環に陥ります。
このような流れを断ち切るためにも、無理のない範囲で運動を継続することが大切です。はじめは風邪と間違えられやすく、シニアの方では「年齢のせい」と思い込まれてしまうことも少なくありません。ですが、長年喫煙を続けていて、慢性的な咳や息切れがある方は、COPDの可能性を疑う必要があります。初期症状は見逃されやすいため注意が必要です。
以下のような症状が見られる場合、COPDの可能性が考えられます。
- 運動時の息切れ(階段や坂道など)
- 黄色や粘り気のある痰
- 肺炎などの感染症にかかりやすくなる
- 頻回の咳
- ヒューヒュー・ゼイゼイといった呼吸音
- 体重の減少
COPD(慢性閉塞性肺疾患)と生活習慣病の関連性について
COPDは肺の病気ですが、その炎症が全身に波及することで、様々な生活習慣病との関連性も指摘されています。
炎症が続くことで体の活動量が落ち、それがさらなる体調不良を招いてしまうという悪循環を引き起こすのです。
- 糖尿病・メタボリックシンドローム
- 栄養失調
- 骨粗しょう症
- 胃潰瘍
- 動脈硬化、心筋梗塞、高血圧など
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の原因
COPDを引き起こす原因として以下が挙げられます。
- 長期間の喫煙(主な要因)
- 幼少期の呼吸器感染(肺炎・気管支炎)
- 有害物質の吸引(粉塵・化学薬品など)
- 気管支喘息の既往
たばこの煙には数百種類以上の有害物質が含まれており、自分が吸っていなくても副流煙でも発症する可能性があるため、周囲の方の喫煙にも注意が必要です。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の検査方法
- 画像検査(レントゲン)
- レントゲンは初期の段階では診断が難しいですが、進行してくると肺が黒っぽく映る・心臓が縦長に見えるといった特徴が見られるようになります。
- より詳細な確認にはCTが有用です。
- 肺がんや気管支拡張症、間質性肺炎との鑑別にも役立ちます。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の治療方法
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禁煙
まず最優先されるのが禁煙です。 禁煙をすると、肺機能の低下速度が緩やかになり、それ以降の進行を抑えることができます。 禁煙が難しい場合は禁煙外来の受診を検討してください(保険適用あり。ただし過去の受診歴がある場合は自由診療となるケースもあります)。
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ニコチンパッチ
皮膚に貼ることで少量ずつニコチンを補い、徐々に禁煙を達成する治療法です。 無理なく禁煙をサポートする手段として活用されています。
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薬物療法
呼吸を楽にするために、気管支拡張薬(β刺激薬・抗コリン薬・テオフィリン)を使用します。 必要に応じて吸入ステロイド薬を併用することもあります。 ただし、これらの薬は肺そのものを修復するわけではなく、症状を和らげるための治療です。 薬を自己判断で中止せず、医師の指示に従って継続することが重要です。
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栄養療法
COPDの方は呼吸に多くのエネルギーを使うため、適切な栄養摂取が必要不可欠です。 体重を管理しながら、バランスの良い食事と運動を組み合わせることが体力維持につながります。
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運動療法
息切れがあるからと運動を避けると、筋肉が落ちてさらに呼吸が苦しくなる悪循環に陥ります。 可能な範囲で、散歩や呼吸訓練、リハビリ運動を継続していきましょう。 症状に合わせて、理学療法士や医師と相談しながらメニューを調整していくのが基本です。
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在宅酸素療法
病状が進行して、体内の酸素が不足する場合には、酸素吸入を行う在宅酸素療法を導入します。 専用の機器から酸素を吸入することで、体への酸素供給を補います。
予防のポイント
- 最も大切なのはたばこを吸わないことです。
- 禁煙によって、COPDの発症や進行リスクを大幅に下げることができます。
- たばこに含まれる有害物質は200種類以上。自身のためにも、周囲の大切な人のためにも、煙のない環境を整えましょう。
まとめ
COPDは風邪や加齢と間違われやすく、気づかないうちに進行してしまう病気です。
最も重要な予防策は禁煙です。
長引く咳や痰、運動時の息切れが気になる方は、早めにクリニックで検査を受けてみましょう。
禁煙が難しい方も、禁煙外来という選択肢があります。ひとりで悩まず、医療の力を活用して前向きに取り組んでいきましょう。