
アトピー咳嗽は、喘息や咳喘息と同じく慢性的な咳を引き起こす病気の一つです。咳への反応が過敏になっており、ちょっとした刺激でも咳が出やすい状態になっているのが特徴です。
ぜんそく(喘息)や咳ぜんそく(咳喘息)と同様に、咳が2〜3週間以上続くことが多く、特に夜間から朝方にかけて症状が強くなる傾向があります。また、風邪などの呼吸器感染症のあとや、寒暖差・気圧の変動などの環境変化がきっかけとなって症状が悪化することも少なくありません。
「風邪が治ったはずなのに咳だけが残ってしまう」「季節の変わり目にいつも咳が続く」といったエピソードが見られる点は、ぜんそく(喘息)や咳ぜんそく(咳喘息)と似ています。ただし、アトピー咳嗽はぜんそく(喘息)に進行することはないと考えられており、これは重要な違いといえるでしょう。また、アトピー咳嗽では喉のかゆみ(イガイガ感)を訴えることが多いという点も特徴です。
アトピー咳嗽(がいそう)の主な原因とメカニズム
アトピー咳嗽の原因としては以下の2点が挙げられています。
・のどや気管など中枢の太めの気道でのアレルギー性炎症
・咳を引き起こす咳受容体が過敏になっていること
一方、喘息や咳喘息は主に末梢の細い空気の気道で炎症が起きるため、同じアレルギー性の炎症でも「起こる場所」が異なります。
さらに、アトピー咳嗽では、咳の感覚スイッチである「咳受容体」が、健康な方よりも反応しやすい状態になっており、それが咳が長引く要因の一つとなっています。
アトピー咳嗽(がいそう)の症状
最も多い訴えはやはり長引く咳です。
加えて、喉の奥にかゆみやイガイガした不快感を伴う方も多く、これはアトピー咳嗽を疑う上での手がかりになります。
咳が強く出る時間帯は、夜間から明け方にかけてです。
また、咳を誘発する要因としては以下の通りです。
- 会話中
- タバコの煙
- 運動時
- 風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症
- ストレス
- 急な気温や湿度の変化
などが挙げられます。
この疾患は、アレルギー素因を持つ中年女性に多く見られる傾向があります。
アトピー咳嗽(がいそう)の診断方法
アトピー咳嗽の診断は、診断的治療をおこないながら治療による反応や症状の経過で判断する必要があります。
診断の基準は大きく4つあります。
- 問診や診察
- ぜんめい(ゼーゼー・ヒューヒュー)がなく空咳のみが続いていること
- アレルギー体質や素因があること
- 治療反応による確認
- 気管支拡張薬が無効であること
- 抗アレルギー薬またはステロイド薬が有効であること
この4項目をすべて満たすことで、アトピー咳嗽の診断がつきます。
ただし実際には、咳ぜんそく(咳喘息)やぜんそく(喘息)との併存がある方もおられますので、慎重な評価が必要です。呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)は正常範囲になることが多く見分けるのに有用なため当院では実施しております。
アトピー咳嗽(がいそう)の検査方法
-
呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)測定
アトピー咳嗽の検査として重要なのがFeNO検査です。 気道にアレルギー性の炎症があると、呼気中に含まれる一酸化窒素の量が増加します。 この値を調べることで、炎症の有無を推定することができます。
ただし、FeNOは末梢気道の炎症に反応する検査であるため、炎症が中枢気道に限局しているアトピー咳嗽では正常値になることが多いとされています。
この違いは、咳喘息や気管支喘息との鑑別に役立つポイントです。
アトピー咳嗽(がいそう)の治療方法
治療の基本は以下の2段階になります。
- 抗ヒスタミン薬の内服
- 効果が乏しい場合に吸入ステロイド薬や経口ステロイド薬の追加
まずは抗ヒスタミン薬を一定期間使用し、約60%の患者さんがこの時点で改善します。残りの約40%では、さらに吸入ステロイド薬を追加することで反応をみます。
それでも不十分な場合には、内服タイプのステロイド薬を短期間使用することがあります。
ただし、内服ステロイドは効果が大きい反面、全身への副作用リスクがあるため、必要最小限の期間にとどめるのが基本です。
また、アトピー咳嗽の陰に他の病気が隠れていないか、常に鑑別診断を意識した治療が求められます。
再発について
症状が治まれば一度治療は終了できますが、再発が見られることも珍しくありません。
そのため、再燃のリスクがあることを理解したうえで、日常的な体調管理や再発時の早期対応が大切です。
まとめ
アトピー咳嗽は、風邪のあとに咳が続くことで始まることもあり、一見すると風邪の延長のように思われがちです。
しかし、咳が数週間以上止まらない・喉がかゆい・ゼーゼーしないといった特徴が見られた場合には、アトピー咳嗽の可能性を考える必要があります。
診断は治療を進めながら判断していくことが多く、適切な薬を使うことで多くの方が改善します。
咳が長引いてつらい時は、無理に我慢せず、早めに医療機関を受診することが大切です。